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名古屋家庭裁判所一宮支部 昭和47年(少ハ)2号 決定 1972年11月06日

少年 E・Y 昭二六・一二・八生

主文

本件申請を棄却する。

理由

一  本件申請の趣旨及び理由の要旨

(1)  本人は、昭和四六年一一月二二日、窃盗、道路交通法違反保護事件により、当裁判所で、中等少年院送致の決定を受け、即日上記瀬戸少年院に収容され、同年一二月七日をもつて、満二〇歳に達するところを、同年一一月二四日、同少年院院長の権限で、昭和四七年一一月二一日まで収容継続決定がなされ、引き続き同少年院に収容されているものであるが、入院後の成績は不良で、暴力により謹慎二日(減点二〇点)、逃走により謹慎二〇日(一級下より三級に降下)、文身類似行為により謹慎三日に処せられる等反則行為によつて著しく進級が遅れ、昭和四七年一〇月一日現在は二級上(同年三月一日当時の級に復したもの)の処遇段階にある。

(2)  本人は、未だ勤労意欲に乏しく、将来の生活設計についても、出たらなんとかなるという甘い考えであり、入院前の怠惰、放縦な生活が身に付いていて、集団生活における対人関係の調整等に問題を残していて、本人の性格(昭和四六年一一月六日付本人に対する鑑別結果通知書記載のとおりであるから、これを引用する)。は未だ充分に矯正されておらず、犯罪的傾向が除去されたとは認め難く、上記の処遇経過に徴すれば、尚引き続き厳格な紀律の下で指導訓練し、一級上に進級させ、その後更に出院前教育を受けさせた上で出院させる必要があるところ、一級下を経て一級上に進級するには相当の努力を要するので、上記法定期間満了後も尚六ヶ月収容を継続する必要がある。

二  当裁判所の判断

(1)  本人に対する昭和四六年少第七五三号保護事件記録、少年調査記録、並びに調査官の調査結果によれば、上記一の(1)記載の処遇経過に関する事実が認められるとともに、本人の性格並びに上記少年院での成績及び反則行為等に関して、次のような事情が認められる。

本人は、上記のとおり窃盗、道路交通法違反保護事件により中等少年院送致の決定を受けたものであるが、同事件中の窃盗は、すべて自動車の使用窃盗に限られており、その大半は、無免許(行政処分により免許取消になつていたもの)で自動二輪車を運転中軽微な事故を惹起し、そのことから無免許運転の発覚することを虞れて、現場から、一昼夜逃げまわつていた間に、路上のオートバイ等を無断使用したというもので、その余の物には手を出さず、結局空腹にたえかねて、警察に出頭自首した程であり、在宅のままで送致を受け、鑑別所に収容して身心の鑑別をなしたのであるが、鑑別結果報告書にも、「一時的に補導委託先に預けて訓練することも考えられる。」とあるとおり、その性格の悪性は、入院前からさして強いものではなかつたのであり、母親の溺愛により、二年近く定職らしきものに就いておらず、怠情癖が身に付いていた(オートバイ運転に対し異常な関心があり、上記のとおり運転免許取消になつて後も、母親にせがみ、オートバイを購入してもらつて、無免許運転を反覆していた。)点に、強力な生活指導、訓練を施す必要は認められたが、成人前年齢切迫により、補導委託の制度が利用できず、かつ管内には短期少年院、或いは交通訓練所がないため、やむを得ず通常の中等少年院への送致決定をなしたもので、本来的には短期の収容で、矯正の効果を期待しうる少年であつた。

本人の性格特性は、本申請書の引用する鑑別結果報告の記載にもあるとおり、極めて小心で、意志薄弱、所謂「ぐず」で、だらしがないという点にあるのであるが、かかる性格特性に上記の如き軽微な悪性を併せ考えれば、収容すべき少年院は中等Aにする等、相応の考慮が払われることが期待されたのではあるが、B級の、しかも上記少年院に収容されたため、入院当初から上級生や、後には下級生からも、度々いやがらせをされ、いじめられていたのであり、上記一の(1)記載の反則行為についてみても、謹慎二日、減点二〇点に処せられた暴力行為(昭和四七年三月)は、上級生から陶土を投げつけられ、横腹を足蹴にされる等の暴行を受けたため憤激して相手の顔面を殴打したというもの、本人の進級遅れの決定的原因となつた逃走(同年六月)も、多数の院生から仲間はずれにされる等精神的虐待に耐え切れず、本人の逃避性癖から、その場のがれに遂行したもので(翌日警官に発見され、連れ戻されるまでの間、空腹のままで、窃盗等の非行はない。)、また謹慎三日間に処せられた文身類似行為というのは、転寮を決められていたが、それを嫌い、反則行為をすれば取りやめになるかも知れぬとの考えから、足にボールペンで竜の絵を書き針でついたという、かなりたわいもない事件のようであり、総じて、本人としては、上記少年院で精一杯努力している形跡が認められ、反則行為による進級の遅れを、一方的に本人の責に帰し、その悪性、犯罪的傾向の除去されていないことの徴表とみることは、余りにも酷という外はない。

(2)  上記の各資料並びに当裁判所が直接保護者(実母及び実兄)から聴取したところによれば、本人の本件入院後の心境並びに保護関係には次の如き変化が認められる。

本件収容決定に至るもととなつたオートバイは、決定直後に母親が処分しており、母親は、本人が少年院に収容されたことについては、自己の放任と溺愛に大きな原因のあつたことを深く反省し、従来は、本人の非行を一切長男○○(婚姻し、自動車運転手として真面目に稼働しており、問題行動はない。)に秘していたのであるが、本件収容決定後、一切を同人に打明けて相談し、同人も本人の将来を心配し、しばしば少年院にも面会に行き、母親ともども本人の早期出院を希望している。出院後は、母親が本人と同居し(従前は、母親は○○方に居住し、本人は独居で、食事のみ母親が運んでいたもの)ともに○○方の近くに居住してその監督を受ける予定であり、本人の出院後の就職先は、○○が中心となつて捜しており、上記法定期間満了までには内定できる手はずとなつている。

本人も、従来の生活態度を十分に反省し、出院後は、二度と母親に迷惑のかかることのないよう、兄○○の期待を裏切らないよう、一心に努力する決意を固め、早期出院を心待ちしている。

(3)  以上の事実関係の下では、本人に対しては、一年間の収容によつて、当初予定されていた矯正教育の効果は、ほぼ達成されており、家族間での本人出院後の受入れ態勢も、一応整備していると認められる。本人の小心な性格やだらしない生活態度は、未だ十分に矯正されたとはいい難いが、これ以上は、出院後の本人の長期にわたる自主的努力によつて、じよじよに改善されてしかるべきものと認められ、本人及び家族の早期出院の希望を抑えてまで収容を継続すべき合理的理由とはなり得ず、また、これ以上収容を継続したからといつて、短期間に特段の効果が期待できるものとも考えられず、むしろ、周囲とのあつれきから反則行為に出、それを理由に更に出院が遅らされることを心配して、自暴自棄的になる等、逆効果の出る虞の方が大である。

よつて、本人については、収容を継続すべき理由は認められないので、本件収容継続申請は、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 大月妙子)

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